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めがねを口に咥えていた時代
2025-04-08
ブログ
昔の著名人のポートレートなどで、メガネのつるを口にくわえたポーズで納まっているような写真を見たことはありませんか?実はある時期までそれがカッコいいものとして認知されていた時代がありました。
写真は「地下水道」や「灰とダイヤモンド」などで知られるポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダですが、画角を決めるためカメラのファインダーを覗くその口元に、しっかりとメガネが咥えられています。
この写真のようにファインダーを覗く以外にも、老眼鏡を使用中に遠くを見る場合や、近視で老眼のある方が近くを見るときにメガネを掛けたままだと手元が見づらい場合など、遠近両用レンズがまだまだ主流とは言えなかった時代は現在と比べて圧倒的にメガネの掛け外しの頻度が高かった事は言うまでもありません。
このメガネを咥えるポーズがいつどこで始まったモノかは正確には分かりませんが、上記の写真が服装や機材、ワイダ監督の容姿から判断して60年代中頃と仮定すると、インターネットのない時代の情報拡散スピードを鑑みておそらく50年代末から60年代初頭の欧米圏から広まったものと思われます。
当初このスタイルはメガネを外さないといけないシチュエーションにおいて両手が塞がっていたり、メガネを置く場所がなかったりという条件下で自然発生的に生まれたものだと思います。しかしそのような状況の必然性とは関係なく、このポーズを「カッコよ!」と感じた当時の人々の間でメガネを咥えるポーズが広まっていったのでしょう。
同じく70年代を代表するTVドラマ「太陽にほえろ」のオープニングクレジットの石原裕次郎氏。こちらも七曲署の捜査一係で陣頭指揮を取る者としての苦悩や葛藤が溢れている表情をしていますが、注目すべきはその舌〈ベロ〉です。咥えるというよりはむしろ舐めるという表現の方が正しいその仕草に、いくら昭和の大スターとは言え「味見してんじゃねーよ」とツッコミたくなります。
また同じく70年代のボブ・ディランのインタビュー映像には、記者会見の席上でカメラマンから「サングラスを咥えてください」とポーズを要求されたディランはそれに応えようと渋々サングラスを口元に近づけますが、どうしても口に咥える事に抵抗があったようで、やおらカメラマンに近づき「キミが咥えなよ」と自らのサングラスを咥えさせ、周りの記者たちに「他に咥えたい人いる?」と発言するものです。現代なら完全につるハラ(メガネのつるハラスメント)として調査委員会が動き出し兼ねない案件ですね。
ここまで男性ばかりを取り上げましたが、女性はメガネを咥えないのかというとそうでもありません。写真は当ブログ担当者Kの私物CD、ジョディ・メッシーナの2000年のアルバム「バーン」ですが、ジャケットのカバーは明るく陽気な笑顔のジョディ、ケースを開け内側の写真はメガネのつるを咥えたセクシーなジョディとメガネを小道具にアーチストの異なる面を表現しようとしているのかのようです。
日本ではメガネを咥えるポーズは80年代に入ると鳥越俊太郎氏や五木寛之氏など団塊の世代インテリおじさんのカッコつけポーズとして散見されたのち減少の一途を辿りましたが、90年代末から2000年代はじめには月9ドラマなどで木村拓哉氏が、そのイズムを引き継ぎサングラスの咥えポーズを披露したりしておりました。それがきっかけとなったかは分かりませんが、キムタクは2021年よりサングラスブランドレイバンのイメージキャラクターに就任しシグネチャーモデルを出すまでになりました。しかしながらサングラスを咥える行為はダサいと気づかれたのか、残念ながら今ではもう咥えなくなってしまいました。
そのように日本ではメガネのつるを咥える文化はほぼ絶滅したと言って過言ではありませんが、欧米では考えごとなどの際にメガネを咥えるのはごく自然な姿として定着しているようです。
この写真の方を見て咄嗟に名前が出る人は今では少ないと思いますが、サッカーの元日本代表監督ハリルホジッチ氏の記者会見での一コマです。2018年ロシアワールドカップを前に監督を解任された苦悩からかガッツリとメガネのつるを咥えています。監督は退いてもメガネのつるを咥えることに関してはバリバリの現役だったようです。